坂詰美紗子のラブストーリー「一生分のワンシーン」 第四回

「抜群の破壊力。」

全てを吹き飛ばしてしまう言葉に出会うことがある。
私は抜群の破壊力を持った言葉に誘われて恋をすることが多いのかもしれない。

スマホの画面を見ると23時を過ぎていた。

彼とは出会った時からフィーリングが合うと感じていて、会うのも3回目ともなれば真面目な話から取るに足らないような雑談まで心地良いリズムで会話が弾む。

向かいの席に座る彼が残り1/3くらい入ったジントニックのグラスを片手に「鳥そば食いたくない?」と言うので「いいよ、じゃぁ行く?」と店を出た。

夜の目黒川沿いは肌寒かった。彼は自分の着ていたジャケットを私の肩にかけてくれた途端に「あぁ〜、寒いっ!寒いっ!」と私の肩を抱き寄せ、さすってきた。その頓珍漢な優しさに「ねぇ〜、さすってるの、これ、私の肩っ!これじゃ、あなたが暖まらないと思いますけどっ!(以下省略)」とジャケットを返そうとすると「ダメダメ!風邪ひかせちゃダメだから!あぁ〜っ、寒い寒いぃぃ〜!」とまた肩をさすってきたので「あはは!」と声を出して笑った。今思えば、この時、私は既に甘い温もりに心奪われかけていたのだと思う。

鳥そば目当てに焼き鳥屋さんをあたってみたけれど、どのお店もラストオーダーの時間は疾うに過ぎていて「ねぇ?温かいモノを欲してるんじゃない?つゆ系なんじゃない?つゆ系〜!」と私は言い、遅くまでやっていそうなおでん屋さんのカウンターに飛び込んだ。お酒もトークもちゃんぽん。恋の話もした。

「男の子ってさ、きちんとレールに収まる子が好きじゃない?私ってね、普通のレールに収まらないみたいなの。あなたみたいにぶっ飛んだ人じゃなくてね、いわゆる一般的な男の子はね、私がレールに収まらないとわかった途端に離れていく。」

「そうだね。なんかさぁ、言い方、悪いけどぉ〜、世の中を生きていくには、そういう子の方が便利なんだと思うんだよね。きっとぉ〜。」と合わせるような相槌をうっていた彼の声のトーンが急に変わって、それはやってきた。

「ねぇ?俺じゃダメ?」

大根に刺した箸が止まる。それまで聞こえていた後ろの席に座る女子3人組の賑やかな声も聞こえなくなって、ひょっとしたら逃しそうな終電の心配も、全部、全部、その抜群の破壊力で吹き飛ばし、世界には私と彼しかいないようだった。

「ダメなんかじゃないよ。」 本当はそう言いたかったけど、私の口から咄嗟に出てきたのは「ねぇ〜、あすなろ白書なの?」で、その誤魔化した言葉に彼は笑いながら「あれっ?あすなろ白書って誰が出てたっけ?」と言い、話題はドラマの話へと逸れていった。

後ろの席の女子が「明日、仕事だわ〜。」と言いながら身支度をしている。

「それじゃ、私達もそろそろ帰ろうか。」と私が言うと、彼は店員さんに向かって手を振り、お会計の合図をして「あ、ここも大丈夫。女の子に払わせられないから。」と言ってくれた。
「えぇ、ごめん、ありがとう。じゃぁ、待って、待って。せめて、お財布出すフリするから。」と言うと彼は笑いながら私の小芝居に付き合ってくれた。

一緒に居ると何もかもが楽しくて、今夜が終わらないで。とはしごした時間だった。

― 昨日はありがとう!遅くまでごめんね。ちゃんと帰れた?めちゃくちゃ楽しかった!次、いつ空いてる?また飯行こうよ! ―

翌朝、彼がくれたメールに何て返信しようかとトキメキが止まない自分がいる。

ベランダのカーテンをあけて太陽の日差しを浴びる。

私は誘われた恋へと出かけてみようと思った。

「ねぇ?あなたがいいかも。」

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