坂詰美紗子のラブストーリー「一生分のワンシーン」 第三回

「 純度100% 」

 
「ねぇ、私たちってさ、どうして、あの時、付き合わなかったの?」そう尋ねると「あれは、タイミングだよね。」と焦った様子もなく一言。今も変わらないよね。自分も誰も傷つけない優しいところ。

「ねぇ、夏休みさ、いつものメンバーで花火見に行かない?」
これまでの人生を振り返ってみて、この花火大会を超えてくるものはない。

「ね〜。やばくな〜い?」
「あ〜。やばいなぁ。全然、動かねぇ〜。」
「ねぇ〜ねぇ〜、はじまっちゃうよ〜。」
「あっっっ やばぁ〜、はじまっちゃった!」
渋滞に巻き込まれ、車内から打ち上げ花火を見ることになった私たち。
ようやく車が動き始めた頃にはもう花火は終わっていて、帰り道に花火を買って海に行こうだなんて誰が言い出したんだっけな。もう覚えてない。ただ覚えているのはその日も私の隣には彼がいたこと。

「美紗子、火〜、ちょうだいよ!」

夜の海、スパーク花火とはしゃぎ合う声、火を分け合う度に重なる手持ち花火、完璧に整った夏のマジックは 好き を加速させ、その日を境に誰よりも近い存在になり恋のランナーズハイで日々をかけていった。
周りの友達からは「は?付き合ってるんじゃないの?」と言われたりしたけれど、結局、最後まで大事な一言が言えないまま。
元カノの出現、知り合った男の子に告られるとか若い頃にありがちな小さな事件簿が重って、友達以上恋人もどき止まりに。

「ねぇ、私たちってさ?どうして、あの時、付き合わなかったの?」
数年ぶりに会い、恋愛の話になったので、もう時効だよね。と思い尋ねた。
好きだった口角の上がった唇から優しい嘘が並ぶ。私たちが付き合わなかったのはタイミングなんかじゃない。もう大人だよ。分かるの。私はあなたの中の何かを超えることができなかっただけ。
だけど、何故だろう。記憶の中で、こんなにもあの夏とあの恋が輝いているのは・・・。

「それじゃ、また!」しばらく会うこともないのだろう。彼と別れ、コンビニに立ち寄りボーッと眺めたバニラアイス。

―あの頃ってさ、ただ楽しくて、ただ傍に居たくて、ただ好きだったよね。―

大人になるにつれて 余計 が増えていく。あぁかもしれない、こうかもしれないと相手の気持ちを一方的に想像して結論を出してしまったり、傷つくことに怯えたり、好きを試してみたり、経験やプライド、恥じらいが邪魔になる。
スプーンですくった真っ白なバニラアイスは溶けて甘さが増していた。

きっと、あの夏の日が今でも輝いているのは、純粋で混じり気のない気持ちで恋をしていたから。

ただ、好き。それでいい。ただ、好き。それがいい。

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